成年後見制度について


成年後見制度について

 判断能力が不十分な方々が、本人らしく生きていく過程で、日常生活において不具合が生じないように支援する制度です。認知症などの理由により、判断能力が著しく衰えた人のために、後見人が財産管理や日常取引の代理等を行うことによって、本人(被後見人)を守る制度をいいます。
 成年後見制度には、大きく分けて、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つがあります。
 法定後見制度の場合には、家庭裁判所が後見開始の審判をすると同時に、本人を援助する人として成年後見人を選任することで開始されます。以後、成年後見人が本人の財産を管理し、本人に不具合が生じないように、適宜様々な契約を行い、本人を支援します。
 一方で、後見が開始すると本人の印鑑登録は抹消され、医師や会社役員など一定の資格を失うこともあることに留意してください。

成年後見制度の理念

・自己決定の専重
・残存能力の活用
・ノーマライゼーション(障害のある人も家庭や地域で通常の生活をすることができるような社会をつくるという理念)

 認知症などの理由により、判断能力が不十分であっても、本人の世界は各人かけがえのない大切なものです。判断力を補いつつ、本人が本人らしく生きることを支援する制度が後見制度と思料しております。
 「認知症になったら終わり」と考える方もおられますが、あくまで判断能力が衰えてしまっただけで、本人の世界「ザ・ワールド」は、素晴らしいものです。私ども職業後見人は勿論、全ての後見人は、どうすれば本人が本人らしく生活を送れるのか、考えながら、任務を遂行していきたいものです。
 人がその人らしく生きていくことを支援する、その姿勢が人が暮らしやすい社会を形成する一助になると信じております。

後見等申立て検討が必要な状況(検討課題)

 ① 財産的な侵害がある

 ・本人の財産や年金などを著しく浪費している者がいる。
 ・自宅で無意味なリホームが散見される。
 ・自宅に、大量のサプリ、水、何組の布団など、明らかに不要な物が溢れている。

 ② 早急な身上監護が必要である(特に一人暮らしの場合)

 ・自宅に腐った食べ物が放置されている、衣服が著しく汚れているなど衛生状態が悪い。  
 ・一人で、満足に食事をとることができない。
 ・徘徊してしばしば迷子になる。家に一人でたどり着けない。

1 法定後見制度

(1)法定後見制度の種類

【後見】精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者 
 ほとんど判断出来ない人を対象としています。  
 代理(本人に代わって契約などをすること)権が与えられます。 
 *被後見人がした契約は原則無効と考えられております。

【保佐】精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者 
 判断能力が著しく不十分な人を対象としています。  
 一定の重要な財産の契約(法律で定められています)で同意権が保佐人に与えられます。  
 代理権が与えられることがあります。 
 *被保佐人がした重要な財産の契約は、取消すことができます。

【補助】精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者 
 判断能力が不十分な人を対象としています。  
 一定の重要な財産の契約のまた一部に関して同意見が補助人に与えられます。 
 *被補助人がした一部の重要な契約は、取消すことができます。   

 * 詳細は、民法7条から19条までを参考にしてください。

(2)後見人(保佐人・補助人を含む)等になる人

 家庭裁判所が後見など申立により、後見人などを選任します。後見人に就任する際に、特別な資格などは必要はなく、本人の親族でも友人でも就任できます。(欠格事由がありますが、そもそも家裁が選任するので、問題はないでしょう。)
 家庭に困難な事情がない場合には、親族が選ばれることがあります。一方で、親族が別居や遠隔地など後見人になれない場合などには、
 ・財産の管理が困難な場合には、弁護士や司法書士
 ・介護などの身上監護が難しい場合には、社会福祉士
   が後見人に選ばれることが感覚として多く思われます。

(3)後見人等への報酬

 家庭裁判所が、本人の財産や本人に対する貢献度をなどを勘案総合して、報酬を決定します。あくまでも参考程度に留めていただきたいのですが、月額2万円~3万円が多いのではないでしょうか。財産が多い人ほど報酬額が増加します。また、本人のために有益なことを行った場合には、付加報酬が生じることもあります。

(4)後見人の仕事

 財産管理と身上監護に分けることができます。
 ⒈ 財産管理…金銭、預貯金、不動産など本人所有の財産を管理します。年金の申請、時には確定申告なども行います。また、本人に代わり、本人に必要な契約や支払いを行います。
 ⒉ 身上監護…本人に必要な介護や医療行為が十分行われるよう配慮します。時にはケアマネージャーと相談して、介護計画を作成し、本人に代わり、介護施設などと契約を結びます。また、入院の手続きや施設などの入所契約、費用の支払いなどを代わりに行います。

 原則、後見人の仕事でないこと。

・本人に代わり、商売や会社の役員などはしません。
・株・投資信託など利殖行為はしません。
・本人の介護や部屋の掃除・洗濯など事実行為(実際にすること)は、後見人の仕事ではありません。(必要な介護士やヘルパーさんを探し、介護や掃除・洗濯がなされるように手配(契約)するのが仕事です。)


2 任意後見制度

・一人暮らし、身寄りもない。認知証になったときに…
・自分の一番信頼している人に支えてもらいたい
・認知症になっても自分らしく生きたい

 任意後見制度は、本人に契約を結ぶ判断能力がある間に、本人が将来の任意後見人を選び、その任意後見人予定者との間で、後見事務内容(財産管理や医療・介護など)について取決めを行い、当該内容について委任契約を行う制度です。

(1)法定後見との違い

 法定後見との大きな違いは、本人が、後見人と後見事務内容を決定できることです。任意後見のポイントは、本人が主体的に自らの後見について決定していく点にあります。したがって、本人が自由にライフスタイルを決定できる一方で、選任と事務内容について自己責任が求められます。また、任意後見契約とあるように、任意後見契約は委任契約ですから、本人に契約を行う能力が必要です。

(2)任意後見人になる人

 本人が、将来、任意後見人になってほしい人と任意後見契約を結びます。法定後見との違いは、この点で、本人が任意後見人を指名できます。

(3)任意後見人等への報酬

 ⒈ 任意後見人の報酬
 契約ですので、報酬は、当人たちが自由に決定できます。
 ⒉ 任意後見監督人の報酬
 任意後見監督人の報酬は、法定後見等同様、任意後見監督人の申立てにより、家庭裁判所の判断により、本人の財産から支払われることになります。

(4)任意後見の流れ

 任意後見は、家庭裁判所が本人の判断能力の低下を相当とみなし、任意後見監督人を選任した時に、効力が発生します。

① 任意後見人候補者を選び、契約(後見事務)内容を決定する

 ⒈ 任意後見人候補者の決定
 本人が、任意後見人予定者(以下「後見人予定者」と記します。)を決定します。親族、友人、専門家など、本人にとって最も信頼できる人を選任するのが一般的と思われます。
 ⒉ 後見事務内容の決定
 後見人予定者選任前又は選任後に、後見事務内容を決定します。
 *事務内容については、決定前に、あらかじめ、専門家に相談した方が無難と思われます。

② 公証役場で任意後見契約をする

 ⒈ 任意後見契約の締結
 公証役場で、本人と後見人予定者が、公正証書により、任意後見契約を締結します。
 *任意後見契約は、必ず、公正証書で行わなければなりません。
 ⒉ 任意後見契約の登記
 公証役場で、任意後見契約が締結されると、公証人が法務局に登記の嘱託をし、当該任意後見契約の登記がされます。

③ 任意後見契約後、本人の判断能力の低下が生じた

 家庭裁判所への申立て
 本人に判断能力の低下が見られたら、後見人予定者などが、家庭裁判所に、任意後見監督人選任の申立てを行います。

④ 任意後見の開始

 ⒈ 任意後見監督人の選任
 家庭裁判所が、本人に判断能力が欠如していると判断したときは、任意後見監督人を選任します。
 ⒉ 任意後見の開始
 任意後見監督人の選任により、任意後見契約の効力が生じ、任意後見が開始します。任意後見人が、任意後見監督人の監督の下に、任意後見契約に基づき、本人の財産管理、身上監護を行います。

⑤ 任意後見の終了

 本人又は任意後見人の死亡、本人又は任意後見人の法定後見等の開始などによって終了します。

(5) 任意後見制度のメリット・デメリット 

 メリット

・本人の意思で信頼できる方を任意後見人に選任することができます。 
・どのように日常生活を送るかなどを契約に盛り込めば、認知症になった後にも、自分の生活スタイルを守ることが可能です。
 例えば、施設よりも費用が掛かっても最後まで自宅で生活したい。月に一度、友人と思い出の店で食事をしたいなど実現可能な限り、今まで通りの生活を行うことができます。

 デメリット

・本人の判断能力が低下後、家裁に任意後見人監督人の選任をしなければ、任意後見人の監督人がおらず、本人の財産を横領する事例があります。
・法定後見制度のような取消権がありません。
*任意後見監督人がつくとはいえ、契約によるため、契約の内容如何によっては、濫用される危険性があります。

 防止策

 任意後見契約を結ぶ前に、その契約内容などについて、弁護士や司法書士など専門家から、意見を聞くなどして、第三者の立場からの意見を求めてみてみましょう。